ども ―ミノムシのゆりかご―

 子供の頃、バッタを手で捕まえるのが得意だった。家の近くの空き地で僕はずっとバッタを取っていた。10分もあれば手づかみで何匹もバッタを捕まえることができた。それだけたくさんいたということなのだろうが、蚊にかまれ、引っ付き虫だらけになりながら飽きもせずバッタを取った。

 どこに行っても空にはトンボが無数に飛んでいた。しかし、空を飛んでいるトンボを網で捕まえるのは難しかった。そのくせ草の上に止まったトンボは目の前でぐるぐると指を回すとつられて頭を動かしだす。そうすると網なしでも指ですっと羽をつまむことができた。

 駄菓子屋でスルメを買って、半分は自分で食べる。残りの半分をタコ糸でまいて家の近くにあった池の中にほり込む。十秒もしないうちにアメリカザリガニがスルメを抱きしめてきた。タコ糸を引っ張ればザリガニが獲れた。ザリガニをスルメから引き離し、またスルメを池に投げ入れる。それを何度も何度も繰り返した。

 テレビより教科書よりずっと楽しい世界が家の近くにいくらでもあった。何が楽しいのか自分でも分からなかったけど、とにかくわくわくしていた。

 ミノムシは家の周りの木に無数にいた。ちょっとした枝にいくつもぶら下がっていて、蓑を取って、蓑を構成している小枝をむしるときれいな糸で作られたきれいな白い袋がでてくる。その中に黒っぽい幼虫がいた。裸にしてしまい、申し訳ない気分になった。

 大人になって家の周りに野原も池も森も無い都会で生活するようになった。目にする生き物が格段に減った。都会は仕事がたくさんある。刺激もたくさんある。でも、生きるのにそこは幸せな場所なのだろうか?

 今は自然の多い長野県で生活している。ミノムシを見ることも少なくはない。

 ミノムシの蓑の中はなんだか心地よく幸せそうだ。