ずめが ―宇宙で昆虫を食べよう―

 僕の家の生垣には毎年、9月末になると大きな芋虫がつく。体長は10 cmくらいのなかなか立派な奴らだ。生垣を裸にする勢いでむしゃむしゃと精力的に葉を食べる。幼虫の形から見ると典型的なスズメガの仲間のようだ。捕まえて殺してしまうのもなんだかかわいそうで、嫌な気分になる。生垣の木には申し訳ないが、毎年の風物詩としてそのままにしておくことにしている。

 スズメガといえば、僕の所属していた研究室の先生がエビガラスズメという蛾の人工飼育(人工的に作った餌を与えることで子孫を作らせる。)に成功した。この蛹を宇宙食にできないかと宇宙開発の研究をしている研究者が考えた。宇宙では牛や豚は飼えない。動物性たんぱく質を得るのが難しい。エビガラスズメならば小さいスペースで飼育できる。蛹でも5-6 cmはある。食べ応えがあるだろう。どうやらそういう発想らしかった。

 その試食会に参加してくれと言われた。断る理由を見つけることもできず、気が進まないまま、付き合うことにした。エビガラスズメの蛹の天ぷらが出てきた。天ぷらの衣が取れると、蛹の口から伸びるストローのような管が見える。蛾の吸収口の部分であろう。それがグロテスクだ。しかし、だからと言って食べないでいるのは、研究者としてのプライドが許さない。

 思い切って口のなかに天ぷらをほおりこんで、食べてみた。

 エビガラスズメがサツマイモの葉を食べるせいか、サツマイモの天ぷらのような味がした。意外とおいしかった。調子にのっていくつか食べた。それを見ていた宇宙食の研究者は

「食べられるね。」

と嬉しそうに言った。

 研究というものはなかなか厳しい。そして、不思議で楽しい。エビガラスズメの蛹の天ぷらを咀嚼しながら僕はそんなことを思った。