んじょ ―おしっこと宇宙―

 杉浦日向子さんのエッセイ「隠居の日向ぼっこ」にトイレ、すなわち厠についての記載があった。厠という言葉は「川の上に作った屋」という意味からきたというのだ。つまり、川の上に橋のようなものをかけて、そこから用を足していたらしい。自然の水洗便所のようなものだ。昔、汚物は『水に流す』という方針が採られていた。川には微生物がいて、汚物を分解してくれる。増殖した微生物を魚が食べる。そのようにして水環境が保たれていたと考えられる。しかし、江戸時代になって都市が成立すると人の多さから汚物が大量に河川に流入することになり、川の汚濁がはじまったと言われている。

 トイレというものと環境問題は強く結びついている。下水処理システムの構築は衛生面からの利点と水環境の保全という意味でも重要だ。だから、環境研究者として僕はトイレに非常に興味がある。

 日本で最も古いと言われるトイレの遺跡は奈良の藤原京跡にある。京都の東福寺には現存する最古の便所「東司」があり、国の重要文化財に指定されている。北海道大学の植物園にも重要文化財のトイレがある。人間はずっとトイレを作って、トイレとともに生きてきたのだろう。

 地球は水の惑星だと言われる。この水がどこから来たのかは実は難しい問題だ。地球の上で発生したという説と地球に宇宙からやってきた氷の塊が衝突して、地球上に水がもたらされたという説とがあり、さかんに議論されている。僕としては後者の説が好きだ。水を構成する水素の同位体比の比較検討から遠い宇宙から地球がやってきたと考察した論文は僕には説得力のあるものに思えた。それに、地球上の水が宇宙からやってきたなんて、なんだか素敵だと思うからだ。

 僕たちの体の80%が水だと言われている。その水が宇宙のかなたでできたものなのかもしれないのだ。

 僕らは水を飲み、水は僕らの身体を通って、尿となって出て行く。

 僕らの身体の中の水分も出ていくおしっこも遠くの宇宙でできたものだと考えると、おしっこもロマンに満ち溢れているような気がする。