シルク, 羊毛や植物・微生物の作るバイオファイバー・・・・・自然界は様々なファイバーで溢れています. これらの生物の作り出した繊維を環境浄化に利用できないか, 検討を進めています. さらに多様な環境が拡がる長野県の自然の中から環境汚染物質を分解する微生物を単離し, それを環境浄化に利用する研究も行っています.

研究紹介   ウールを鉛の吸着剤として再利用

繊維学部の農場で飼育されていた羊

羊毛はセーターなどによく使用されていますが, ウール製品の再利用はあまり検討例がありません. そこで羊毛でできた毛糸を環境浄化に利用する方法を考えました. 毛糸から『信大法』と呼ばれる化学的な方法により羊毛の成分であるケラチンというタンパク質をケラチンコロイド(コロイドとは水に分散する細かい粒子のことを言います.)として取り出しました. ケラチンは鉛イオンと相互作用する硫黄を含む分子を多く含んでいます. そこで, このケラチンコロイドを鉛イオンで汚染された水に加えてみました. すると鉛イオンとケラチンコロイドが塊を作り, 沈殿しました. 沈殿物を取り除くと鉛イオンが除去された水を得ることができました.

Yuri Sekimoto, Tomoki Okiharu, Haruka Nakajima, Toshihiro Fujii, Koji Shirai, Hiroshi Moriwaki; Removal of Pb(II) from water using keratin colloidal solution obtained from wool, Environ. Sci. Pollut. Res., 2013, 20, 6531-6538.

研究紹介   カイコの糸で水から油を取り除く

繊維学部の農場で得られたカイコの繭

カイコの繭に水をかけると水をはじきます. このことは未処理のカイコの糸が油を吸収するということを意味していると考え, カイコの糸を油吸着材に利用することを検討しました. 紡糸が困難な汚れた繭を使い, ミルという機械を使って綿状にしました. この綿を油に浸すとその綿の重さの50倍もの重さの油を吸着することが分かりました. 吸着された油はしぼることにより回収でき, しぼったあとの綿は油吸着材として再利用できました.

Hiroshi Moriwaki, Shiori Kitajima, Masahiro Kurashima, Ayaka Hagiwara, Kazuma Haraguchi, Koji Shirai, Rensuke Kanekatsu, Kenji Kiguchi; Utilization of silkworm cocoon waste as a sorbent for the removal of oil from water, J. Hazardous Materials, 2009, 165, 266-270.

研究紹介   長野で石油を分解する微生物を発見する

裾花川の原油湧出地点

長野市を流れる裾花川には中流域に川底から石油が湧出している場所があります. この場所に生息している微生物は石油を栄養源として分解することでエネルギーを得ているものがいるだろうと考え, そこから土を採取し, 微生物の培養を行いました. 結果, 石油を分解することのできる新しい微生物株を得ることに成功しました.

森脇 洋, 藤井朱瑞, 伊藤 隆, 野村隆臣, 裾花川の石油湧出地点より単離したバクテリア(Acinetobace beijerinckii susohanaR)の石油分解能, 信州大学環境科学年報, 2020, 42, 92-99.